good by juvenile

それでも青春は続く

一人一杯と一節

 「お一人様大歓迎」とぐるなびでデカデカ喧伝されていたおでん屋に入る。扉を開けた瞬間に嫌な感じがして、顔を上げると怪訝そうに店員がこちらを見ている。1、2、3秒ほど待ってみる。にらみ合いが続く。耐え切れず「あの、ひとりですけど、大丈夫ですか?」と恐る恐る尋ねてみると「スミマセン、今日は席が空いてなくて」。予約でいっぱいなのかもしれないけど、カウンターも座席も空席だらけだった。そのまま店を後にした。

 しようがないから、安いチェーン店に入る。まだ19時前だけあって、ほとんど客がいない。カウンター席に案内されて、ビールとコロッケ、焼きネギを注文する。旨い。

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 そのまま、時折追加注文をしながら、読書をしつつ、だらだら2時間位は居座っていた。その時読んでいたのがよしもとばななのエッセイで、あまりにも美しい描写に感動したので、勝手だけど引用する。

夕方の光が本当に透明な金色になる季節は秋しかない。夏の間に買ってあった新しく薄いセーターに初めて袖を通し、サンダルを靴に履き替え、深まってゆく秋を観察しに外へ出るのが好きになった。 きれいな光や黄色く変わった街路樹を眺めながら目的もなく歩いていると、春夏に興奮して動き回ってためてしまった疲れが溶けているような気がする。心静かになり、すべてのものがひっそりと柔らかく感じられる。 秋の長雨というのだけはまだ好きになることができないが、雨に濡れた舗道に色とりどりの落ち葉が濡れてはりついているのを見たり、そのしめった匂いをかぐのは好きだ。

人生の旅をゆく (幻冬舎文庫) p84 「秋の気配」より抜粋

  とてもやさぐれた気分で、誰かと一緒になって騒ぐ気分でもないし、家で飲むというような感じでもなく、居場所のない感じの夜だったけれど、この一節に出会えてすこしだけ救われた気がした。