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それでも青春は続く

シンポジウム「建築アーカイブの現在と未来」

[速記録]シンポジウム「建築アーカイブの現在と未来」@東京大学 速記録シンポジウム「建築アーカイブの現在と未来」 10/2/21 東京大学



イレーナ・ムレイ 王立英国建築家協会(RIBA)英国建築図書館長

隈研吾 建築家、東京大学大学院工学系研究科教授

槇文彦 建築家、株式会社槇総合合計画事務所代表取締役

竺覚暁 JIA-KIT建築アーカヴス所長、金沢工業大学教授

伊藤毅 東京大学大学院工学系研究科教授、建築史





開会の辞



隈「建築アーカイブの変化は3つ起きた。一つ目は建築とアートが近くなってきた。かつては縦割りといいますか、あまり近いものではなかった。手紙、図面が近年では美術館に展示されるようになった。二つ目は建築家の図形、模型、図面が、グローバルな資本主義化によって価値を見出されるようになった。三つ目はデジタル化によって図面のコピーが容易になる。つまり、どこがオリジナルなのか、オリジナルをどうアーカイブするのかが問題となってきた。建築物を撮った写真も同じです。かつては、アナログ写真は時とともに劣化してしまったが今はそれがない。まとめると、1、建築のアート化 2、グローバル資本主義 3、デジタル化。以前、文化庁主導で莫大な数億円の資金を投入して、建築のアナログ写真をデジタル化しようとしたことがあります。」





基調講演



イレーナ「祝辞。英国のとある建築家がこういっています。『過去は異国であり、そこではやり方が違う』と。アーカイブは、過去未来現在の仲介者です。我々RIBAは、各機関、事務所、教育者の資料、賞のアーカイブを取り揃えるよに努めています。



↓ 再現してみました。こういうスライドがあったのです。

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私達がアーカイブを集めることで、例えば、この資料館に来れば、このパラディオが300年間存在し続けたことを証明する資料に自由にアクセス出来るのです。単にドローイングや図画の集まりであるだけでなく、その思考性や、創造的過程、政治的動向もみることができます。また、教育目的で使用された資料のアーカイブは規模こそ小さいですが、貴重なもの大事なものです。1887/3/17 ジョサイア・コンドルが日本建築学会の前身、造家学会。戦後RIBAのアーカイブは日本の立場を反映している。RIBAの場合は膨大な価値のある資料をオンライン上でどのようにアーカイブするのかという問題に見舞われている。日本のようにテクノロジーの国でこんな事をいうのは、あれかもしれませんが、私達のつかうメソッドは最先端ではない。全30人程度のメンバーでアーカイブ化し、オンライン上でポータブル環境でもアクセス、閲覧できる状態にするのは気の遠くなる作業。何万枚もある図面やドローイングがあるからです。



ribapix.com 現在5万枚

architecture.com ダウンロード可



イレーナ「このような活動を通してかつての発想、情熱を共有する事を通してつながりを持つ。完全なアーキテクチャの存在を作ることを目標にしています。

80~90年代からコンピュータによるデザイン制作が始まり、フォルムやフォーマットといったものだけではなく、本質的な構造に目を向ける必要がある。まだまだ、デジタルのものよりも、物理的なそれの数のほうが多いのです。デジタルアーカイブ化をするということは、ソフトとハードを組み合わせる必要がある。であるから、その形式もまた、いつかは陳腐化してしまいます。









その資料ができた背景と切り離して、資料を保持する必要があるのです。デジタルアーカイブはその本質を見付け出すことが必要なのです。よりインテリジェントにみせるネットワーク技術が構築されていないといけません。それはキュレータなどがやっていく仕事でしょう。かつてフロイトは無意識下の世界をローマの町になぞらえたとか。」





ディスカッション





隈「1部での問題提起は的確なものばかりでした。デジタル化、政府・機関とのつながり、実行者の問題等。」





槇「ドローイング・スケッチのコピーライトは最終的に誰に属するのでしょうか。ある建築家の例で言うと、その人は非常にアーティスティックで、たくさんのドローイングをつくった。それを博物館に寄附した。で、大学でその画集を作ることになった訳なんですが、その建築家の遺族がそのコピーライトは私たちにあるとして、その利益の一部を求めたんです。こういう事が実際起こったわけなんですが、イギリスでも同様の事例はあるのか。またどのように対処しているのかをお聞きしたい。」





イレーナ「ご質問ありがとう。出版物であれ、ウェブサイトであれ、そのコピーライトは非常に複雑です。ただ、イギリスでは明確にそれが規定されていて、没後60年は作家に属することになっています。デジタルコンテンツでは改変が可能なので、PDFAという技術で他者が改変できないようにしてあります。RIBAではコピーライトに非常に気を使っていて、それらの些細な変更等、細かく記録してある。ですから、過去にそういうことで問題となったことはありません。」





槇「続けて。60年経っていない、最近のクリエイターのものは先に遺族に許可を取って、出版等されているのですか?」





イレーナ「本人が生きている時には、本人に許可をとる。遺族とのやりとりは全て保存してあるし、アーカイブは寄贈されたものだけをしています。寄贈の際に、文章で合意を取り決めているので、法的な問題はありません。あらかじめ、文章にて合意をしておくのが良いかと思います。」



伊藤「日本ではプロのアーカイヴィストが育っていない。建築家、キュレータ、アーカイヴィスト、3つのプロフェッショナルの関係、そしてどうやって育てて行くべきかをお聞かせ願いたい。」





イレーナ「建築のアーカイヴィストになる学校があれば『はい、そちらへどうぞ』って言えるんですけど(笑)実際にそのような学校はまだありません。いろいろな場所で経験をするしかないのです。私の場合、プラハを出て、新しい町へ移住しました。このときに、『何かを失った』という感覚に襲われたのです。この感覚が、アーカイブへの思いの原点かもしれません。この感覚を持って、改めて建築を学びました。」





伊藤「アーカイブでも、歴史のアーカイブですと、テキストを保存するのが普通です。でも建築は建物や文章、図面、模型などjとても総合的なものである。で、そのアーカイブの中で、大学というのはどのような行動をすればいいのか、ということをお聞きしたい。」





イレーナ「大学こそが建築を考えるハブ(Hub)としての機能が最も必要とされる場所です。今でこそアーカイブの重要性が認められていますが、大学がその中心であるべきでしょう。元々、アーカイブという行為は教育的なのです。自身の経験で言わせて貰えば、私たちは時々、キュレータとしての仕事を学生たちを巻き込んで実行しています。月に数回、彼等自身にプレゼンをさせたり、展覧会、シンポジウムを企画させてみる。これは彼らのセンス、感覚を磨くことになる。それらを通すことによって、アーカイブは死んでしまったものではなく、生きたままのモノであることが理解できるのです。」





竺覚「(JIA-KIT建築アーカイヴ設立の契機のスライドをみる。) この機関では、あらかじめ設計者と著作権については取り決めをおこなっている等々。日本のアーカイブは図書館と同じで集めて展示して終わり。決して研究ではないのです。だから研究予算がつかない。ですから、新しくチームや機関を組んで、やっと予算をつけてもらえるんです。ちょっと二重構造的ですけどね。」





スライドの一枚:日本の建築アーカイブス例

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(400万なのか400なのか不明です、ゴメンナサイ)



イレーナ「(スライドの内で、400枚(?)の資料を集めたと説明したのを受けて)これだけの資料を集めればコレクションとして十分スタートを切っていると思います。素晴らしいです。私がアーカイブをしていて悲しいのは、どんなに頑張っても、全てのアーカイブを達成した!と思える瞬間には出会えないことですね。資料は膨大です。これだけの資料400万点は素晴らしいと思います。」





竺覚「嬉しいですね」





イレーナ「二つだけ言いたいことがあります。一つ目は私にできることがあれば、何でも言って欲しい。逆に私たちを手伝っても欲しい。二つ目、大きな団体が提携していけば大きな力となるものと考えます。私は大学は大好きです。同時にミュージアムも大切だと思うのです。この異種間の提携が全く新しい、私たちが気づかなかった人々へ影響することができることに驚かされたわけです。5歳以下の子供への教育という点にも気づいた。」





イレーナ「もう一つ言えるのは、国際的共有が互いに大きな影響を及ぼし勉強になる。大きな予算をつけて、リサーチプロジェクトやデジタル化に取り組んでいる。これはアーカイブされたそれが何処にあるのかを重要視するのではなく、国境の垣根も越えて、共有されるべきだと考えるからです。また、あくまで寄贈されたものをアーカイブするという形を守るべきである。これを貫かなくてはなりません。今や高価格で図面が取引される世になって、それが正統なアーカイブをおびやかしています。それぞれのアーカイブチームに競合させて、一番の価格を提示したところにアーカイブさせるというやり方が横行しつつあるのです。高値で、アーカイブのためにそれを購入する行為はそれ以外の善人(ただで寄贈した建築家)の怒りを買うことになるのです。インテグリティを傷つけるのです。また、他国からの「密猟」はしてはいけないといつも主張しています。他国の地域に密接した建築を、無理やり奪ってアーカイブするのは決してしてはいけないことなのです。それが許される場合は、それをしなければ「失われてしまう」状況にある場合のみです。」





イレーナ「あと、よくある話で、寄贈したアーカイブ作品を自分専門の場所に保管した方が良いのか?と尋ねられることがあります。民間の保管では到底及ばない資本の元で、恒久的に保存、研究がされる。しかも、どんな人でもいつかは死んでしまうのです。ですから、総合的な保管、保全ができる機関に預けていた方が良いのではないか、と説得するようにしています。」





槇「日本のアーカイブはドローイングが非常に多い。これは日本人だけかもしれませんが(笑)。21世紀にはいってからは一気にデジタルの物が増えた。ドローイングした直後、すぐさまスキャンしてデジタル処理をすると、ほぼ完成に近い形が出来上がってしまう。だから、建築家はどんどん余裕が無くなってしまう。忙しい人だけがどんどん忙しくなるのかもしれません(笑)。ドローイングを書きためておいて、それを後で活かすというのは無くなりつつありますね。私の事務所は割と模型を作るのですが、私の知り合いの外人の建築家に彼が設計した高層ビルの模型を持っていったら、これは凄い!といって驚くんですよ。彼らは模型をその時初めて見たわけです。もう模型を組まなくても、高層ビルが建てられるってわけです。もう、ニュータウンなんか、子供にドローイングさせれば良いかもしれない(笑)そのくらい、建築は建築家の手を離れつつあるのかもしれない。」





イレーナ「全くそのことを話そうと思いました。これからは建築家だけでなく他の分野とのコラボが増えると思います。」





隈「もうお時間が押してますが、プレミーティングの時の、カナダが進んでて、イギリスはそうでもないっていう話がおもしろかったので、それもお願いできますか?」





イレーナ「政府による理解は、こういう言葉を使って良いのか分かりませんが、民度によって変わります。文化に対する成熟度ですね。カナダはそれが最先端を行っています。何故か。それは歴史の上で自己の文化が海外流出するという危機感がすごくあった。それが免税という形で、その措置をとるに至った。エリックソンという建築家は建築の才能があったが、金銭感覚はなかった。晩年は破産宣告を受けるので、こういう建築家に対しては、免税措置は良いんじゃないでしょうか。イギリスは手本にはお恥ずかしながら、まだまだなれない。唯一の手段とすれば、寄贈した瞬間に死んでください(笑) そうすれば、家族に相続税が入りますので 笑 」





【気になった点】



日本では海外流出が問題となる。と最後に隈さんが言っていたのが気になる。海外流出ってなんだろう。