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それでも青春は続く

バリ島日記⑤ バリの夜は終わらない

 その日、僕らはテガラランと呼ばれるライステラスを見に行くことにした。ホテルで車をチャーターして、ウブドまで適当にツアーをしてもらう。ライステラスに着くまでに、銀細工の店やコーヒーショップ、モンキー・フォレスト(猿が放し飼いにされている)に立ち寄って、おみやげを買ったり、写真を撮ったりしていた。おみやげを買ったのは、今日がこの旅の最終日だからで、小物やお菓子を買うたびに日本のことを少しずつ思い出さなければならなかった。

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 テガラランは世界遺産に指定されているほんとうに美しい場所だった。バリには比較的いいモノの神様が山や森にいて、人を災厄から守ってくれるという言い伝えがある。ただの棚田でしかないのに、そういう神聖な感じをちゃんと感じさせる力強さがある。ライステラスを登っていると気分が晴れやかになってきて、すれ違う白人の観光客を横目に「いまの女の人、すっごい美人だ。すごいすごい。」とY氏に報告したりして、「君は日本にいる時とほんとうに人格が違うね」と呆れられたりした。全然神聖じゃない。神聖じゃないといえば、道の要所要所に、現地の10代半ばくらいのこどもが関所を構えていて、「世界遺産を継続させるために募金をお願いします」と金をせびってくる。「一体いくら払えばいいんだい?」と聞くと「それは募金ですから、お気持ちですよ」と怖い顔で睨んでくるのだ。募金なのでしなくてもいいのだろうけど、そいつが道で仁王立ちをしているをしているものだから通るに通れない。要するに通行料だ。ちょっとだけ手渡すと嘘みたいな笑顔で、さあどうぞ、と送り出してくれるのだ。世界遺産登録で人が来るもんだからやり始めたのだろうけど、まったく、狡賢いなあ。後ろにいたオーストラリア人の女性は「ごめんね、いま手持ちがないの」と華麗にスルーを決めていて、旅の熟練度の差に頭がさがる思いだった。そこにシビれる憧れる、である。

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→日に焼けた逞しい労働者。土で手を汚して働く者はすべて美しい。

 

 夜、レギャンに戻った僕らは帰国の準備をして、最後の夜遊びにでかけた。レギャンの夜はとにかく派手だ。通り中の飲み屋それぞれからド派手な音楽がかかっていて、現地人も観光客もみんなが夜の街にくりだしてお祭りみたい。クラブもたくさんあって、ほとんどがエントランスフリーで入れる。すごいぞ。「スカイガーデン」で馬鹿みたいにビールを飲んで騒いで時間をつぶす。

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 →比喩抜きででかい箱。めちゃくちゃ楽しい。

 帰る前にホテルのプールで泳ぎたいとY氏が突然言い出す。「けっこう飲んだから、溺れないか見ててほしい」とのこと。Y氏はスイーッとプールの向こう岸まで泳いで、僕に手を振った。僕も最後に泳いでおこうかと思い、水着に着替えて飛び込む。夜中の3時に泳いでいるなんて嘘みたいだ。空には青白い半月が浮かんでいる。全身の力を抜いて、街から聞こえてくるやかましい音楽と、虫の声を聞きながら、ただ浮かんでみる。夢みたいだった。すべてが現実離れしていて、もうどうでもいいや、と思った。やがて街の喧騒が消え、静かな夜が訪れた。旅は終わった。しかし、バリの夜は、今日も続いている。

 

マリカのソファー/バリ夢日記 (幻冬舎文庫―世界の旅)

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